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夢追い人 2

― 2 ―


たった今、石への変化を遂げた少女をじっと見据える。

何故この娘は、こんなにも自分に協力してくれるのだろう。

老人は以前から不思議に思っていたが、特に問いただす事もなく、彼女の厚意を受け入れていた。


考えても仕方が無い事に時間を費やすよりも、やらねばならない事がある。
老人は、早速彼女をモデルにした彫刻の制作を再開する。






人間には生命がある。
石には生命が無い。
しかし今、目の前に立っている石像には生命がある。

生命のある石像と、無い石像。
違いは何なのだろうか。

少女は石を彫る事が、石に生命を与える事だと思っているようだ。
しかし、実際に「生きた彫刻」を目の当たりにすると、とてもそうは思えない。

外見はただのリアルな石像なのだ。
しかし、自分が今までに造り上げて来たどの作品にも無い、生命の息吹と言うか、オーラと言うか、不思議な感覚に捕らわれる。

これが生きているという事なのか。
何とか、この感覚を自分の作品で表現できないか。

老人は思考を巡らせながらも、必死に石を打ち続けた。
額に汗を、手には血を滲ませながら。

完成まではまだまだ時間がかかりそうだが、一刻も早く逢いたいのだ。亡き妻に。






老人のアトリエには少女の他にも、稀に客人が来る事がある。
骨董品屋や、美術館を営む者、町の富豪等だ。
彼はその訪問者達に自分の作品を売り、生活の糧としていた。

今日も1人の来客があったのだが、あろう事か石となっている少女に目を付けた。
それが石化した人間だとはわからない客は、何とかして売って欲しいと大金を差し出し交渉して来たのである。

もちろん、老人は断った。

彼女は生きているのだ。石になっている間に壊れたり、傷付いてしまう事は、彼女にとって死を意味し、その身体は永遠に人に戻る事はない。
石化が解けるには、石化前と同じ姿形でなければいけないのだ。

しかし、そうとは知らない客は少女の身体をペタペタと値踏みするように触り始めたのである。

「触るな!!」と客を怒鳴りつけ、殴ってしまった。

それは、生きている彼女の身を危ぶんでの言動だったのだが、それよりも彼女の裸体に触れられた事が許せなかったのだ。

一目散に小屋から逃げ出した今日の客はもう来ないだろう。

後悔はしていない。それで良かったとさえ思う。

これ以上生活費を稼ぐ必要は無い。
現在手許にある、僅かな蓄えだけで充分なのだ。

―もう少しだけ、わしの我侭に付き合ってくれよ。

彼は心の中でそう呟き、作業に戻った。






空がうっすらと茜色に染まり始めた頃。
少女の身体は人間の色を取り戻した。

「すまなかったな。」

彼女の石化が解けるなり、老人は詫びた。
昼間にやって来た無礼な客が、彼女の身体に触れた事についてだ。

「大丈夫です。それよりも、ありがとうございました。」

少女は、老人が自分をかばってくれた事が何よりも嬉しかった。






「明日もまた来ますね。」

「ああ。」

少女と老人は同時にアトリエを出た。
家はお互いに正反対の方向にあるので、その場で別れた。


老人と別れてまだ数十歩しか進んでいない地点で、ふいに少女は振り返った。
夕焼けにそまった彼の背中を名残惜しそうに見つめながら、彼女は決心を更に固めた。

私は、彼の妻にはなれない。
でも、彼の妻の代わりにはなれるかも知れない。
少女は、込み上げてくる想いを胸の内にしまい込み、自宅を目指して走り出した。





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