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夢追い人 1

― 1 ―


―カーン。カーン。

町外れの丘の上。
心地よい風を全身に浴びながら、少女は音のする方へ歩み寄る。
そこはそびえ立つ大樹の下、風景に溶け込むように建てられた古い小屋。

少女はこの音が大好きだった。

只の岩石の形が変わって行く音。
只の岩石に生命が吹き込まれる音。
そして「彼」の活動を教えてくれる音。

逸る気持ちを抑えきれず、小屋を目指して駆けて行く。

木製のドアをノックし、中に入ってから挨拶をする。

その時の彼はリンゴを作っていた。
横を見ると、既に完成された果物が置かれている。
器に盛られた、オレンジやバナナ。
全てが石で出来たフルーツバスケット。

厳めしいその顔とは対照的な彼の可愛らしい趣味に、少女はくすっと笑った。

「昔、妻が良く手にしていたものだ」

作りかけのリンゴを机の上に置き、フルーツバスケットを見ながら言った。
その時の少女は白髭に覆われ日焼けした彼の顔を見つめていたが、彼につられてバスケットに目を戻す。
数種類の小さな石ころから作られたのだろう。
微妙に色の濃さに違いがあるが、グレー一色に統一された果物達。
精巧に作られたそれを眺めながら、少女は果物の持つ本来の色を想像し、目の前の石に重ね併せる。
本物の果物ならば、このバスケットの中は様々な色がひしめき合い、甘い香りを放っているのだろう。


色も香りも無い果物達だが、少女は好きだった。

そこには彼の思い出が詰まっている。
自分が知らない、彼の記憶が詰め込まれているのだ。

もの静かな老人の目は、どこか遠くを見ているようで、少女はおいてけぼりを喰らった気分になった。

「あの。」

彼の意識に戻って来て欲しくて。
耐え切れず掛けられた声に反応した老人の視線が自分に向けられ、彼女はほっと安堵の息を吐いた。

「続き、やりませんか?」

「そうだな。」

少女はにっこりと微笑むと、老人の前でそっと衣類を脱ぎ始める。
少し恥ずかしいけれど、彼に自分の全てを見てもらえるのならば本望だ。

足元まで落とした下着から足を抜いて、老人の方を向いた。
胸と陰部を手で隠していたが、すぐに自分の大切な部分を彼の前に晒す。


女性としてまだまだ未熟な彼女の身体を、老人は憂いを帯びた目でじっと見つめる。
少女の頬がほんのり赤くなった。





作りかけの彫刻に被せられた布を取り払う。

少女の可愛らしい裸体を再現した作品。―と言えば間違いではないが、正解でもない。
老人は少女をモデルに、亡き妻の若かりし頃を再現しようとしているのだ。


少女は老人の役に立てる事を嬉しく思ったが、やはりどこか淋しい気持ちもある。
彼の目は、少女を媒介し、昔の妻の姿を見ている。

老人と、彼の妻との間に自分が入り込む余地など無い。
そんな彼の目を見る度、少女はそれを痛感し、胸が締め付けられるような何とも言えない物悲しい気持ちになるのだ。
それでも彼女は何一つ文句を言わず、ただただ老人の夢に付き合うのだった。




裸になった少女を背に、老人が瓶に入った薬を取り出した。
グラスの中に黒い液体を数滴入れ、水で薄める。

そして、少女の前に差し出す。

グラスを受け取り、ためらう事無く液体を飲み干した彼女の身体が徐々に変色して行く。
それは、あの果物達と同じ色。

―これで、数時間のあいだ私の身体は一切動かなくなる。


市販さえ禁止されているものの、魔術と薬学にある程度精通している者ならば、簡単に作る事ができるらしい。


この薬を飲むのは何度目だろうか。
自身の身体が石に変化していく感覚にはもう慣れている。

―私はその間、本当の意味で彼のモノになれる。

少女の瞳から光が消えた。



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