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夢追い人 3

― 3 ―




―私って、変なのかな。

友人達を見ていると、やはり恋人には歳が同じか近い者を選んでいる事が分かる。
中には10近くも歳が離れているカップルはいるが、この少女のように60歳近くの差がある人間に好意を持つのは極めて異例だった。

その為か、友人達には何となく話し辛かったし、好きな人がいるのかと言う質問にもノーと答えていた。

彼女が相当年上の男性を好いている事よりも、あの小屋でひっそりと生活を営む老人の事を噂話にして欲しくなかったのだ。





―カーン。カーン。

今日も丘の上からあの音が聞こえる。
今は一体何を作っているのだろうか。

少女はフルーツを詰め込んだバスケットを腕に、小走りで小屋へと向かう。

「こんにちはー」

いつものように木製のドアを開け、挨拶と同時にぺこりとお辞儀する。
石を打つ音が止み、代わりに老人の足音が聞こえた。

「これを」

顔を上げた、少女の目の前に差し出されたもの。
黒曜石で作られた蝶だった。

「わあ」と瞳を輝かせながら、少女はそっと受け取る。

「昔、妻に贈ったのと同じものを作ってみた」

「いいんですか?」

「ああ」


少女は嬉しかった。大好きな人からプレゼントをもらったのはもちろんなのだが、それ以上に彼が自分に「妻」を求めてくれる事が。

少しずつではあるが、自分は彼が求める存在に近づいている。
例えそれが誰かの代役なのだとしても、もう迷いはない。

彼の心の拠り所となれるのは私しかいない。
そして私の心の拠り所となれるのも彼しかいない。









昼前に少女が老人の小屋を訪れる。
少女が裸婦像となり、老人が石を打つ。
会話こそ無いが、互いに幸せと生き甲斐を実感できる二人きりの時間。

夕暮れ時、彼女が人間の姿を取り戻す。
そして1日が終わり、2人は別れる。

それが少女と老人の日常。








しかしその日は違った。

石化が解けた少女は、「ふう」と静かに息を吐き出してその場に座り込んだ。
老人も少女と同じく「ふう」と息を吐いて額の汗を拭う。

窓から外を見ると案の定、空が赤みを帯びている。
今日も楽しい時間が終わってしまった。明日にまた同じ時がやって来ると解っていても、この後彼とまた別れるのかと思うとちょっと淋しい。

老人が肩から大きな布切れを掛けてくれた。
そして、部屋の奥から湯気を立てているマグカップを2つ持ってきた。


特に話す事も無く、静かにレモングラスティーを飲んでいた2人だったが、ふいに老人が口を開いた。

「頼みがある」

「はい?」

「今日は、もうひと頑張りしてくれないか?」

彼の唐突な発言の意味が解らず、きょとんとしていた少女だったが、理解すると満面の笑みで答えた。

「…はい!」








暗くなった室内に灯りが灯される。
部屋の隅にある机の上の蝋燭。
そして老人の手元にあるランタン。

僅かな量の光だが、狭い室内を照らすには充分だ。


少女は再び石になっていた。

ちろちろと揺れる蝋燭のほのかな光に浮かび上がる石の肌。
昼間の彼女には無い、艶かしさがそこにはあった。

老人は彫刻作業に取り掛かる前に、動けなくなった少女へと歩み寄った。









―カーン。カーン。

暗くなった丘の上に、ようやくあの音が響き始めた。
石を打ちつける老人の先に立っている少女の石像。
その唇は、うっすらと濡れていた。





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